自由

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この10月にめでたく40歳になった山口県立美術館。開館の頃は母が既にギャラリーをしていたため、なんとなく通った覚えはあるけど、美術に今ほど熱心でなかったので、展覧会のことはあまり記憶に残っていない。本当にまだらというのか、未完成のパズルみたいに隙間だらけ。その代わりに美術家をはじめ、いろいろな職業の大人と会う機会が多くて、その人たちの四方山話に興じていた。およそ学校では習うことができない話題ばかり。しかも、あの頃は10代の若者であっても、容赦のないガチトークで刺激されっぱなし。美術を美術作品から学ぶ前に、美術にまつわる人間模様を教わって、自分の価値観の土台を鍛えてもらった。

そんな10代最後の年、県美術展覧会に出展された作品が大きな波紋を起こす。それは殿敷侃さんの「黒の反逆集団」という、数トンの古タイヤやビニール、プラスティックなど、黒い廃材を美術館の前庭に並べた作品。当時、再生することができない産業廃棄物を聖なる美術館に展示するとは何事かと非難の渦が巻き起こる。そして、賛否両論というより否定的な意見の方が圧倒的だったが、新聞記者や文化人はこぞって殿敷さんを応援して、表現の自由のために戦った。みんな自由を守るためにスクラムを組んで前に進んだ。ちなみに県美展は創設時から斬新な作品を奨励し、また、新しい表現を推奨する寛容さがあったため、問題作は優秀賞と高い評価を与えていた。なんて県美展は懐が広くて、時代の壁を乗り越えていく力がある。

昨日、車を運転中にエフエムラジオから「あなたと山口県立美術館との思い出」の特集が耳に入る。私なら何を語ろうか?と考えて、このような文章が出来上がってしまった。これからの時代も、あの頃と変わらず、表現の自由を楽しみたい!みんなで美術を心置きなく楽しめる社会でありたたい!