雨ニモマケズ

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宮澤賢治の代表作の1つである「雨ニモマケズ」。私はこの序文の「雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫なからだを持ち 欲は無く 決していからず 何時も静かに笑っている」に触れた時に、頭の中に思い浮かんでくる人物がいる。

その人は美術という混沌とした世界に身を投じながら、飄々とした態度で厳しい現実を受け入れて、いつもこつこつと休まず制作し続けている。もちろん、お金がなかったら生きてはいけない。だけど、それは美術制作のために必要なものだと割り切っている。決して、何か贅沢なことをするために欲しい訳じゃない。また、美術公募展へ出展するのは、純粋に自分の腕を試したいだけ。地位や名誉には全くこだわっていないし、むしろ面倒くさいものとしか思っていない。損得勘定がなければ、無意味な競争心もない。だから世間から評価されなくても、好きな美術に楽しく熱中することを、一番の喜びとして生きていける。どんなに苦しい状況にあっても、感情的に怒ってしまうことはない。自分を達観視して笑い飛ばそうする。その場その場で自分自身を肯定することで、黙々と美術と向き合うことができるのだろう。

つまり、仏教用語の道楽という生き方なのだ。ちなみにこれは世間一般でいう本職を忘れて、好き勝手に遊び呆けて放蕩することではない。本来は、仏道の修行によって得た悟りの楽しみを表す。その修行に励む禅僧の生き方は、悟りのためにすべてを投げ打っている。美術家も同じこと。創作へ没頭するには多くの犠牲を払わなければならない。普通の人が味わうような幸せに背を向けて、ひたすら自分の世界観を求めて努力するのだ。その人は修行僧のように潔く道を歩こうとしている。不安に負けて何かに依存することなく、ピンと信念を持って独立している。このたびの作品展であらためて感じた。いや、さらに成長されていることがわかった。美術家とは終わりなき旅人。これからも新しい創作を楽しみに待ってます!