言葉が多すぎる

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「言葉が多すぎる / というより / 言葉らしいものが多すぎる / というより / 言葉と言えるほどのものが無い」という名言がある。

この言葉は朝日新聞の折々のことばに掲載されたもの。『そうしてつぶやく。「さびしいなあ / うるさいなあ / 顔ひんまがる」と。世には言葉が洪水のように溢れる。が、真に「ふかい喜悦」をもたらしてくれる言葉、渇いた心を芯から潤してくれる言葉にはめったに出会えない。人びとはもはや言葉を信じていない。詩人はそこに「亡国のきざし」を見た』という解説にハッとさせられた。

なぜなら、近ごろ美術作品を鑑賞した方の感想と言うと、「素晴らしかった」や「面白かった」など、端的なフレーズで語る人が増えてきた。美術鑑賞した際の感想には答えなんてなく、人それぞれ自由に好き勝手に言っていいはずなのに、美辞麗句で総括したような言葉で感想を語ることで、かつ、余計なことは言わずに、端的なフレーズを繰り返して強調した方が、賢そうに立ち回れるような風潮を感じている。型にはまった言葉では新鮮味がない。いわゆる「紋切り型」ではオリジナル性に乏しい表現になる。豊かな個性を育むチャンスを逃すだろう。美術家の仕事とは問いを投げかけることであって、そこには具体的な答えなんてない。だから、鑑賞者は無理に何かの感想を言おうとしないで、そのかわりに感性に深く刻み込んで、年月が経つとともに思い浮かぶ言葉を語ることが大切なのだ。