現代アート

f:id:gallerynakano:20210909000729j:plain


1983年3月発行の山口県立美術館ニュースに、現代美術作家 殿敷侃さんが執筆した『伝統の構造 ヨーロッパで考えたこと」の末文に、「ドクメンタ 7(ドイツ・カッセルの国際的な現代美術展)で、わたしがそこに観たのは『現代という社会性を強くはらんだ作品群』と『日常的なさまざまの文化を共有しようとする市民意識』の2つの顔だった。それらは、このカッセルでは、どのような経緯を経て本質的に、相互的に結び付き合い、そして連続性の活力を生み出しうるものに成長したのか。そんなことを現場で考えたことだった」という書かれてあった。

ちなみに殿敷さん(当時40歳)は1982年4月から約半年間をかけて欧州と米国を旅して、世界各地の美術を自分の目で観てまわり、さまざまなアートを積極的に触れて肌で感じて吸収していった。中でもドクメンタ 7 の会場で、ヨーゼフ・ボイスの社会活動そのものを芸術表現と捉える思想に直接触れ、自らの表現手段にも社会性を取り入れるべきだと確信を得るのだった。そして、1983年9月に開催された第37回県美展に、古タイヤやビニール、プラスチックの廃品を美術館前庭に山積みにした「THE BUNCH OF THE BLACKREBEL」を出展。現代社会における文明を批判する衝撃的な作品に県民を騒然とさせた。いわゆる今風にいえば炎上してしまった。

とはいうものの、この作品によって殿敷さんの方向性は定まっていく。これ以降、さまざまなインスタレーションを試み、宇部野外彫刻展では古タイヤを木々の枝にかけて表現したり、自然の中や画廊内に捨てられたテレビを数十台を並べて虚無な空気を感じさせるなど、社会的なメッセージを込めたインパクトのある作品を発表し続けていったのだ。これも当時から県美展は展示スペースの規格制限を撤廃し、豊かな創造性を自由に発揮できる場であったから。常識の枠を超える作品を生み出す土壌が殿敷さんの才能を開花させたのだろう。