他山の石

今週、中堅ゴルファーの有村智恵選手の「去年は本当に心が折れましたね」というツイッターのつぶやきがネットニュースで話題になる。これはプロデビューした時から注目を浴びて、一気にトッププロの座を射止めて、華々しく大活躍していた。しかし、近年、自分よりすぐれた若い選手たちが次々に台頭。昨季はコンディションは悪くなかったのに、賞金ランキング50位とシード圏内ギリギリの位置まで落ち込んでしまい、思わず胸の内の本心が出たのだろう。

どうしてこうなったのかと言えば、それはゴルフを取り巻く環境がよくなったから。例えば、自分のスイングをスマホで撮ってすぐに見られるようになったことや、お手本になる有名選手のスイングを解析した動画が気軽に見ることができる。つまり、誰かの言葉によるアナログなアドバイスから、デジタル機器を使って科学的な視点から改善点を見い出し、それについて必要なトレーニング方法で具体的に鍛えられるようになった。急速にゴルフを取り巻く環境が変化して、それについていけない自分へのもどかしさを書き綴ったのだ。

このことは単にゴルフ界におけるものではない。美術界もデジタル機器の表現力は進歩したことや、質の高いネット情報がたくさんあるおかげで、かつてないほど、若い世代に有望な人材が増えてきている。もちろん、こういう便利な時代に溺れて、感性に過剰な負荷をかけてしまい、オーバーヒートしている人も多くいる。なんでもかんでも紙一重。服用を1つ間違えば、薬ではなく毒になる。美術はスポーツと違って、ハッキリとしたルールのもとで、競い合っているわけではない。それゆえ、若い世代の動きに惑わされず、自分らしく創作すればいい。だけど、世の中は常に変わっていく。だから注意が必要だ。有村選手のニュースは、他山の石として良いものであった。