深い無邪気
谷川俊太郎
村上さんの友達はみんな自分が自分であることに満足している。
縞のあるものは縞のあることに、首の長いものは首に長いことに、
地を匍うものは地を匍うことに、空を飛ぶものは空を飛ぶことに。
しかも彼らは満足していることに、自分で気づいていない。
この世に出現したことにびっくりして、彼らはきょとんとしている。
この深い無邪気に私たちは打たれる。善と悪とが分かれていない世界、
まだ言葉が生まれていない前の静けさー村上さんという人間もまた、
自らの内部にそういう世界をもちつづけているのだろう。
それを自然と呼ぶことも許されるだろうか。
だがその自然を村上さんは、けものたちや鳥たちのように自然に獲得したのではないと思う。
村上さんの友達の友達に、わたしもなりたい。
2月9日(木)~26日(日)まで開催いたします
「村上明 ぼくのともだち」展は
森の中に住むウサギやキツネ、野原にいますヒツジやトリ、
はたまた砂漠のラクダやジャングルのライオンなど、
愉快な動物たちが優しい色の版画で創られています楽しい世界です。