見えざる手

f:id:gallerynakano:20191002234332j:plain


小学生の頃、芸術家 岡本太郎氏がテレビCMで言い放った「グラスの底に顔があってもいいじゃないか」というセリフにしびれていた。当時、ドリフターズ加藤茶の「チョットだけよ~」というギャグに匹敵するくらいのインパクト。CMが流れるのを楽しみにしていた。実は太郎氏は大阪万博の「太陽の塔」でも知っていたため、芸術家とはこういう人だと悟ってしまう。なぜなら日本はまだ硬い雰囲気に包まれて、人と少しでも違うことをすれば奇異な目で見られる時代に、自分らしく生き抜く姿はカッコよかった。しかしながら、その後の人生で、まさかそういう面々とご縁があるとは思わなかった。もしかしたら太郎の見えざる手かも。いや、そう考えた方がいい。意外と正しかったりする。

そのことはさておき、高校時代に県美展で積み上げただけの新聞紙が彫刻として出展されていた。しかも最優秀賞(現大賞)。タイトルは「ドローイング新聞 no.13(17万部)」。鉛筆で描いた新聞を元に印刷し、プリントされた用紙を積み重ねた立体作品。作者はこの作品以前から鉛筆で新聞を描いていた。約30年後、その理由を尋ねてみたら「人は新聞を目の前にしたら反射的に見てしまう。しかも過去の記事ならこんなことがあったと振り返る。そうやって知らない内に自分のドラマとリンクさせていく。一見、取っつきにくい現代アートに誘い込んで、いつの間にやら作品鑑賞させたら面白い。そんな新聞が作品になるという常識破りに挑戦したんだ」と教えてもらった。

やはりこの作者も岡本太郎氏と同じように既成概念を打ち破って、人が想像つかないものをモチーフとして着目し、昨日までの常識は今日の非常識と言わんばかりに、私たちに新しい世界観を提供してくれただろう。そんな彼がホームグランド、山口県県立美術館は開館して40周年。吉村芳生さんはこの場所で産湯に浸かってから挑戦し続けてついに芸術家なれた。それだけ県美展には大きな可能性を広げるパワーがある。さあ、次の芸術家になるために徴していこう!