装丁

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「書物に於ける装幀の趣味は、絵画に於ける額縁や表装と同じく、一つの明白な芸術の続きではないか」という詩人 萩原朔太郎の言葉がある。
ふと気が付けば、中也記念館では「書物の在る処」、県立美術館では「小村雪岱スタイル」と、どちらも大正・昭和初期に活躍した同時期の作家を取り上げる。かつ、その時代の先端を走った華やかなブックデザインの作品が楽しめる。この2つの作品展を観て一番感じたのは文化へのあくなき向上心。当時、すべて手作業でやっていく中で、どこまでも手間を惜しまず、それぞれが知恵を出し合い、一冊の本作りに命を懸けていた。関わる人たちが情熱を燃やし、プロとしてのプライドをかけて、最高だと言われるように最大の努力をしていったのだ。
つまり、ひとつの文化を創るための飽くなき探求心は半端じゃない。とにかく、独創的な装丁にしようにも限られた情報しかなくて、あらゆることをヒントにしながら、新しい創造への入り口に立つことを目指す。学校教育が広がって、言語が一般的になって、誰もが自由に読み書きができる時代へ。それらを謳歌してもらうにふさわしい仕事がしたい。使命感から生まれる熱いエネルギーを積み重ねて作り上げていった。「本気」って、もしかして、本作りに真剣に取り組む気持ちを姿勢を表した言葉なのかも。詩人や絵師の周囲にいる頼もしい存在がそう教えてくれる。温故知新。今でも通じる精神に感服する。