本能

先週より始まった県美術展で栄えある大賞を受賞した井岡義朋さんの絵画作品「鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)」について、成相肇審査員は以下のような講評を公表した。

一目見て圧倒的だと感じた。兵士、銃撃や爆撃など戦争という主題は明らかだが、大画面の隅々まで注意を払い、主題の重さに負けず密度ある強烈な画面をまとめ上げている。多数の色彩を用いつつトーンを統一し、狙い塗りに線描や文字を重ね、さらにコラージュまで加え、これだけ多くのことを行っていながらも破綻なく仕上げるのは並々ならぬ筆力だ。見るごとに新しい要素が浮かび上がる重層性に、森の中で複雑な植生を間近に体験しているかのような感覚を思う。時間をかけて何度も見返させられた。(略)

そう言えば、開会式直前に井岡さんとお話しした時に、近ごろこの世の中にある様々な問題や懸念などを口にすると、煙たがれたりドン引きする人ばかりで、みんなが真剣に考えなきゃいけないことが疎かになって、憂慮すべき状態だと嘆いていた。嗚呼、だから孤軍奮闘で立ち向かった。やるせない思いを描かなくてはいられなかったのだろう。