鯨捕り
金子みすゞ
海の鳴る夜は 冬の夜は、
栗を焼き焼き 聴きました。
むかし、むかしの鯨捕り、
ここの海、紫津が浦。
海は荒海、時季は冬、
風に狂ふは雪の花、
雪と飛び交ふ銛の縄。
岩もこいしもむらさきの、
常は水さへむらさきの、
岸さへ朱は染むといふ。
厚いどてらの重ね着て、
舟の舳（みょうし）に見て立って、
鯨は弱ればたちまちに、
ぱつと脱ぎすて素つ裸、
さかまく波にをどり込む、
むかし、むかしの漁夫たち―
きいてる胸も をどります。
いまは鯨はもう寄らぬ、
浦は貧乏になりました。
海はなります。
冬の夜を、おはなしすむと、
気がつくと―
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