金子司の茶室 「種々」

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芥川龍之介が日々ひっかかった断片ややこだわって、大正12年から3年間ほど
文芸春秋へ連載した「侏儒(しゅじゅ)の言葉」の中にある「創作」という文章は


  創作
                              芥川龍之介


芸術家は何時も意識的に彼の作品を作るのかも知れない。
しかし作品そのものを見れば、作品の美醜の一半は
芸術家の意識を超越した神秘の世界に存している。
一半? 或は大半と云っても好い。

我我は妙に問うに落ちず、語るに落ちるものである。
我我の魂はおのずから作品に()露(あらわ)るることを免れない。
一刀一拝した古人の用意はこの無意識の境に対する
畏怖(いふ)(を語ってはいないであろうか?

創作は常に冒険である。
(所詮は人力を尽した後、天命に委(ま)()かせるより仕方はない。

少時学語苦難円 唯道工夫半未全
到老始知非力取 三分人事七分天

趙甌北(ちょうおうほく)の「論詩」の七絶はこの間の消息を伝えたものであろう。
芸術は妙に底の知れない凄みを帯びているものである。
我我も金を欲しがらなければ、又名聞を好まなければ、
最後に殆ど)病的な創作熱に苦しまなければ、
この無気味な芸術などと格闘する勇気は起らなかったかも知れない。


と、ここまで難解なイメージがある「芸術家」をわかりやすく書かれるのはさすがですね。

ところで、この文章を思い出したのは昨日に山口県立萩美術館・浦上記念館和風展示室
10月26日(日)まで開催中の「金子司の茶室 種々(くさぐさ)」を鑑賞した後に
その余韻(感想)を何かに例えられないかと考えている時のことでした。

ちなみに金子君の作品は四畳半の茶室に萩焼の土と釉薬を用いて創られた
野草3000本が草むらのように広がったインスタレーション(仮設空間)作品。

元来から日本にある野草のほとんどは薬草として外傷の手当てや病気の治療の他、
浮世絵や着物の色にも加工して使えるやさしい自然の恵み。

それを鋭い感性から土で表現した様はグロテスクに感じなくもないけど、
日常の風景の中で見落としていた野草の生命力をシンプルに創作しただけのこと。

もちろんこの作品を勝手に想像すればするほど如何にようにも思えるから面白い。

これも上記の芥川さんの言葉を借りれば、金子君は新しい表現を探すために
秘境にも果敢に臨む冒険家でもあり、芸術というものを真っすぐに受け止めて、
本気で闘う格闘家であるからでしょう。

どうかお時間がある方はご覧ください。

■金子司の茶室 種々( くさぐさ )■

会期 2008年4月5日(土)~10月26日(日)
時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(ただし、9月15日と10月13日は開館し、9月16日(火)、10月14日(火)
会場 山口県立萩美術館・浦上記念館和風展示室 山口県萩市平安古586-1
観覧料 企画展(現在はカルロ・ザウリ展 イタリア現代陶芸の巨匠)のチケットが必要になります。
※カルロ・ザウリ展観覧料 一般1000円(800円)、学生800円(600円)
※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金
※70歳以上と18歳以下の方、および高等学校、中等教育学校、特別支援学校に在学する生徒は無料

なお、ギャラリーナカノでも金子君も参加しています「G7 ギャラリーナカノ7人展」も開催。
どうかこちらもご覧ください。

■HEART2008関連企画 G7 ギャラリーナカノ7人展■

会期 2008年10月9日(木)~26日(日)
時間 11:00~19:00
定休日 10月14日(火)、20日(月)
会場 ギャラリーナカノ 山口市中央1-5-14

■出品作家■

金子司、末永史尚、手島大輔、戸嶋由香、中土井律子、廣澤仁、吉村芳生