アプロプリエーション

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現代アートの手法に、過去の他者の作品の一部または全部を意図的に取り込んで、自らのアート作品として使用することを「アプロプリエーション」という。この手法はすでに流通している写真や広告などを、引用できる許容範囲を大幅に超えて作品に取り込み、コンセプトを書き換えて、独自の解釈による再構成による表現方法のことだ。1964年11月、芸術家でポップアートの旗手アンディ・ウォーホルはこの手法を用いて、雑誌に掲載されたハイビスカスの写真をベースとした作品を個展で発表して大人気になる。しかし、その後、雑誌社から著作権侵害で訴えられて、裁判は事実上、著作権侵害であることを前提とした敗訴の和解で結審したのだった。

ところが、2019年7月に写真家が撮影したミュージシャンの肖像写真を用いたウォーホルの作品に関する写真家とウォーホル美術財団との裁判で、米国の司法判断は「フェア‐ユース」(著作物を公正に利用する場合、著作権者の許諾がなくても、著作権の侵害にあたらないとする考え方)として、55年前とは真逆の判決を下した。これは長い間数多くのアーティストが訴訟して戦い、判例を積み上げてきた結果として正当化できるようになった。ただし、この判決によって確信犯的な流用や盗用した作品が増えて、自身の作品が取り込まれる可能性がある写真家たちはナーバスになったと言われている。

私は「アプロプリエーション」については、節度を持って行うのなら認めざるえないと考えている。ここまで多様化した社会環境の中では美術表現の在り方も広がり、必然的に大きな視点に立って受け止めなければならないのだろう。「人はいつも、時が物事を変えてくれると言うけれども、本当は、それはあなた自身が変えなければならないものだ」というウォーホルの言葉がある。世のすべてのものは常に移り変わってくるもの。さまざまなことを豊かに楽しむためには、自分自身の感覚を変化させていくこと。つまり、新しい感覚を発見して成長することが大切になるのだ。