鉄人

サン・テグジュペリの小説 星の王子さまに「おとなは数字が好きだから、新しい友だちのことを話しても、おとなは一番大切なことは何も聞かない。『どんな声をしてる?』とか、『どんな遊びが好き?』『蝶のコレクションをしてる?』とか言ったことは決して聞かず、『何歳?』『何人きょうだい?』『お父さんの収入は?』など聞くのだ」という一節がある。
いわゆる子どもの頃は、自分の考え方が正しいことで、それが当たり前だとしていたのに、大人になってしまうといつの間にか、そんな大胆さを忘れてしまう。大人の社会にある常識やルールに縛られていって、「これはこうでなければならない」と、世間様と同調することで無難に生きることを選択したがる。安全第一で生きることは大切なこと。それゆえに、目に見えるわかりやすいことにこだわって、相手を表層だけで簡単に判断していくため、上っ面のコミュニケーションになりやすい。
ちなみに、美術家は子どもの心のまま活動している人が多い。世間一般の枠からはみ出せる自由な発想があって、本当に子どもっぽくて世間ずれしているから、新しいものを創り出すエネルギーを持っているのだ。
そう言えば、7年前に末永史尚君の個展開催した際、田中米吉先生がお越しになってすぐに、なんとも形容しがたい不思議な言葉で、次々にいろんなことを末永史尚君に大真面目に話しかけていた。それは創作への探求心であり、若さへの嫉妬でもあり、有望な後輩への熱い激励でもあった。先生は自分のことを天才だと思っている。その気持ちを老いても保ち続けることは素晴らしい。永遠の少年は最後の最後まで、作品制作に夢中になっていた。鉄人の偉大な足跡に心より敬意を表します。合掌