余白の美

江戸中期の僧、白隠禅師は禅の始祖達磨大師を描くのにどれだけ時間を要したかという問いに対して『10分と80年』と答えたと言われている。ちなみにこの言葉は絵を描くために必要な技術を修得する年数のことではない。白隠禅師の言う80年とは、達磨大師を描くために迷いや煩悩などを断ち切り、境地に達するために必要な年数のことを意味する。
ところで、ただいま個展開催中の深海志都香さんの作品の特徴は、伝えたいことはできるだけコンパクトにまとめて、白い紙に黒の色鉛筆を使って一筆で描いていく。そして、少しだけ水彩絵の具で色づけしたり、細かい切り絵でアクセントをつけるなど、シンプルイズベストである。
それはつまり、余計なしつらえは一切しない、余白の美と言うべきもの。単純で純粋で観る人の心を惑わすことはない。今の実力に見合うものであればいい。上辺を誤魔化したら心苦しくなるだけ。それより表現されていないものを楽しんで欲しい。その人なりに作品を読み解いてもらえたら嬉しい。深海さんはすべての面でまだまだだけど、純粋に創作と向き合っているから、達観したような一面を感じさせる。