自然と私

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傘をさして石の浜へ続く細道を下りていく。
時折風の声が唸る。
めずらしく冷たい風だ。
大きなカニが1匹あわてて草かげに隠れた。
浜を立つと潮が満ちはじめているらしく、
低く寄せるうねりが岩に砕けてしぶきを上げていた。
海はさっきよりもいっそう豊に息づき、
強い生命感をたたえている。
その生命感に私のいのちが奥深くところで感応しはじめる……。
やがて空と海の境が消え、茫然とした乳色の世界が生まれていった。
私はしだいに気持ちがよくなりその広がりの中に
しばらくの間とけていたようだった。
気がつくと水平線辺りが明るく風も雨もやんでいた。

詩とどくだみの版画 大西靖