一二三

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先月、美術家を志している人とお会いした。それなりに長い年月に渡って作品制作に取り組んでいる。ただし、それは趣味の世界としか言いようがないレベル。美術とソフトな関係しか築くことができない器なのだ。そこで、どういうビジョンで創作をしているのかと尋ねたら、まったくその質問に対して不誠実な回答をもらう。その後も同じようなやり取りが続いて、ああ言えばこう言う屁理屈の連発だった。こちらからすれば、基本中の基本しか尋ねていない。個性を尊重するために素地を探ったのだが、けんもほろろの流れになってしまった。

こういう人は年に1、2度くらい会うことがある。スタート地点は趣味で始めて、先生の指導の元で気楽に楽しくやっていた。ある程度のレベルに達すると、やっていけそうな自信が生まれたので、今度はプロとしてやろうとするのだが、プロはこれまでと大きく違って過酷な世界。今まで同じやり方では通用しないのだ。そんな現実を無視してやっても、実際には何も変わることはない。プロになりたいのなら、潔く趣味の山から降りて、プロの入り口から白紙になって挑戦する。厳しい批評にさらされない場所から飛び出し、美術家と言われるための戦場の最前線に立つのだ。つまり美術家であるには覚悟がいる。私はそれがあるのかないのかを見た時のインスピレーションで判断し、見誤ってはいけないので対話で再度確認するようしている。美術家は一見華やかだが、普通の人のような幸せは味わえない。私はただこのことを丁寧にお話しして、それでもやっていきたい熱い気持ちがある、現実を真正面から受け止めた人を応援しているだけだ。