恩送り

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20代の頃、上京したら滞在時間がある限り、美術館や画廊を巡ることにしていた。新幹線で東京駅に着くとすぐに、八重洲から京橋の画廊へ行き、そのまま歩いて銀座界隈を次々に訪問。そして、新橋から山手線で上野へ移動し、今度は美術館で展覧会を鑑賞していた。それは何のためにやっていたのかと尋ねられたら、絶対量の美術鑑賞をしたらセンスが良くなるという信仰と、メジャーなものに触れることで、自分が凄い奴だと思い込むためのルーティンだったのかもしれない。
つまりそこには立派な根拠や適切なプログラムがあった訳ではない。若さから生まれる無意味なエネルギーと、無知である故に頼る直感を使って、努力すれば美術で勝負できる人間になると勝手に信じ込んでいた。今から冷静に振り返ったら痛々しく、とても恥ずかしくなる過去の話。ただ、私は今日もその延長線上に生きている。何がよくって何が悪かったのかはわからないが、それらすべてを栄養にして生きているのは確かないこと。もしかしたら元はとっているのかもしれないな。
それはさておき、この時代に一番良かったのは、美術への情熱を植え付けてもらったこと。当時、「本当に君は美術が好きなのか?」という質問は挨拶代わりでもあった。たまたまそんな人たちと出会ったのかもしれないが、何となくじゃなくて、好きなようだでもなく、本気で美術に愛を語ることを要求された。そんな先人や先輩に恩返しはできないから、私の周囲にいる人たちに恩送りをしていく。美術について自由に語り合えって、熱気が生まれる場所になること。どこまでできるかはわからないが、これに努力することが私の使命だ。これまでと理想に向かって変わらず努力していきたいと思う。