違和感

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昭和の時代、歌謡番組で「歌は世につれ、世は歌につれ」というフレーズがあった。これは流行歌とは世の成り行きにつれて変化し、また、世のあり様も歌の先進性に影響されるという意味だ。この世の中に存在するものすべては、互いに影響し合って変化し続けるもの。裏返して言うのなら、いつも現世は新しい刺激で溢れている。これまでの伝統のみを重んじて生きろなんて、頑固で融通の利かない人の言い訳にしか思われない。いつのまにか、それにかないと信じ込んでいる。本当の自分、今現在の最高のパフォーマンスが隠されたまま、マンネリの中で個性を埋没させる人生になるだろう。
ところで下瀬さんの作品はその昔から変化が少ない萩の街の個性を上手く表現している。建物や道路環境は整備されて、街並みもきれいになったけれど、萩には萩でしか味わえない独特の空気がある。目をつぶっただけで幕末維新にタイムトリップできる、濃度の高い文化の香りが漂ったまま。そんな萩の特色をじっくりと選び出し、「ん?あれ?」という微妙なスパイスを加えて、「悪くないけれど、ちょっと違う…」といった、何かがズレてモヤモヤさせながら、「これこそが令和の萩だ!」だと言いたくなる、古いものを新しく感じさせる魔法を使う。萩にちょっとした違和感を与えて、観る人の意識を掘り下げることで、古い萩に秘められた新しい萩が観えてくるようになるのだ。これぞ下瀬イリュージョン!やっぱり萩は素晴らしいと感動させられる。「天地結界」。どうぞこのたびの展覧会でご堪能してください。
■下瀬信雄展 2019年5月23日(木)~7月7日(日) 9:00-17:00(入館は閉館30分前まで) 休館 月曜日(ただし6月3日、7月1日は開館) 観覧料 一般1200円(1000円)、シニア70歳以上・学生1000円(800円)( )内は前売・20名以上の団体料金。18歳以下および高等学校、中等教育学校、特別支援学校に在籍の方等は無料 山口県立美術館 http://www.yma-web.jp/