人は誰でも目の前の現象を観察するためのセンサーを持っている。例えばよくわからないことやものと偶然出会い、それまでの知識では解決できない場合、手探りするような感覚で触れていく能力があるのだ。これによっておよその輪郭を見つけ出し、正体はハッキリしないものに対して、適切な距離から接していけるようになる。つまりセーフティーモードで生きていくために、何も学習しなくても遺伝子というもので対応できるのだ。この野生の勘があるからこそ、太古の昔から人間は生き続いてきたのだろう。
一昨日、そんな本来人間の持っている能力について考えさせられた。歴史のある空間での赤いヒンメリで表現された現代アートの作品。基本的には繋がりそうもない2つの点と点。それぞれのベクトルは違った方を向いている。しかし、美術というものは一見繋がりそうもないものを繋げてしまう。ちょっとした魔法をかけて、そこに新しい世界観を創り出す。発見真正面から見れば違和感がある空間表現も、美術家によって先入観は打ち破られ、これまでにない物語が生まれる。「今回私が展示している茶室には、すべての人が平等になる場所という哲学があります。すべての人に平等の死と再生を、お茶室という空間で感じていただけたら幸いです」という作者の言葉。この場所の歴史を江戸から令和へ一瞬に繋げた。全体を俯瞰して素敵な入り口を教えてくれる。やはり人の感性を面白いものを創造できる。いつも余地があるものだと思った。