短いセリフ

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昨年秋よりNHK連続テレビ小説を2期続けて熱心に見続けている。その理由はとても明快だ。前の「スカーレット」は陶芸家で、今の「エール」は音楽家と、どちらも芸術家になるまでの過程を描いた物語。ドラマに登場する人物たちが発するセリフには、創造を仕事にするものの苦悩や葛藤、喜びに人生観など、様々なことが満遍なく織り込ま れて、観終わった後は余韻がなかなか冷めずに心地いい。

昨日の「エール」も実に良かった。音楽学校記念公演の最終選考会に残ったヒロインに対して、審査員のプロの声楽家が言い放った厳しい言葉、「(二次審査会での)何も歌から伝わってこなかった。自分だけが楽しんでいるようではプロとしては通用しない。あなたは何を伝えたいの?どこまで役を理解している?何も伝わらなかったの、あなたの歌からは」は心に響いた。芸術という世界に憧れる人にとって最高のアドバイスだと思った。

やはりプロの道を目指している以上、基礎知識やテクニックだけではない。その人しかできない創造的なものによって勝負するしかない。鑑賞者たちに臨場感あふれる空気に惹き込み、未知の不思議な気分で酔わせてしまう、自分らしい個性で魅了することが仕事だ。つまり創造を職業にする人に終わりなんてものはない。どこまで高いクオリティを求めて、果てしなく挑戦していく人を、人はプロと呼ぶのだろう。そのような本質を短いセリフで言い切ったことは素晴らしいと感心した。