独自性

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その昔、画家のボブが1枚の絵を30分以内に描く、「ボブの絵画教室」というテレビ番組があった。キャッチフレーズは「私が教えるのは描き方の技術だけ、何を描くかはあなた方の世界です」。それはまるで料理番組のように、手際よく様々な絵の道具を使いこなし、全く下描きもないキャンバスに、美しい風景画を完成させていく。しかも、制作過程から目が離せなくなるほど魅力的に語るため、ついつい引き込まれて見入ってしまう。日本の美術界はまだまだお堅い時代。その頃に「失敗なんてありません。楽しいハプニングがあるだけです」と言いながら、ライトな感覚で制作の面白さを伝えるのは、とにかく画期的で存在感のある番組だった。

あれから月日が随分経って、創作する人たちのトークが上手くなってきた。自分の作品はこういうものだと、ちゃんと語ろうとする人たちが増えてきた。それはそれで良いこと。昨年、県美であった岸田劉生展でも、作者の熱い言葉を画集で拝見し、本当は昔から言いたかったのだと知らされた。やはり作品は熱意の賜物。描き切った余韻が冷めず、出来上がるまでの信念を、知ってもらおうとするは当たり前なのかも。

ところで、このたびの岸透子さんの作品展では、作品のそばに詩のようなメッセージがあって、より深く作品を鑑賞できるようになっている。例えば「薔薇の品種改良は、人と薔薇との対話です。花弁を増やしたい、色を変えたい、花を大きくしたい・・・・・・人は薔薇に求めるものを伝え、薔薇はそれを受け入れれば増やしてもらえると気付いて、自分を変えることに合意し、その結果様々な品種が生まれてきました(後略)」(青をめぐる対話より)と、彼女が常日頃から感じている世界観が素直に表現され、絵ととも味わうことで素敵な化学反応が楽しめるのだ。いつも新しい試みから新しい何かが生まれてくる。この調子のまま、透子ワールドへ向かって邁進することを祈る。