本物の輝き

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「あーしんどかったなあって、本当に、正直に言っちゃうと、努力って報われないなって思いました。どんなに、どんなにいろんなことを積んできても、どんなに正しいことをやってきても、報われないときは報われないんだなって。でも、きっと僕が表現したかった『天と地と』(楽曲)という物語は、勝敗についてはよくないかもしれないけど、あのミスがあってこその『天と地と』だったのかもしれないですし、そういう意味ではちょっと苦しかったけど、滑ってよかったなとちょっと思ってます」というのは、北京五輪フィギュアスケート男子シングルで第4位になった羽生結弦選手のインタビューでの言葉だ。

2日前のショートプログラムの最初の4回転で失敗したものの、その後は最善を尽くしたスケーティングでなんとか8位にこぎつける。そして、この日のフリーでは前人未到の4回転半に挑んで着地できなかったが、五輪史上初の演技者として名を刻むことができたが、それよりもなによりも世界中の人々の心に刻んだのは、もっとスケートが上手くなりたいという理想へのあくなき向上心だろう。銀河系最強のスケーターとして盛りを過ぎたことは否めない。それでも自分の可能性を追究する姿勢は1ミリもブレてはいない。妥協なきアスリートはどこまでも素晴らしさを求めていく。

だからこそ、羽生選手の後に競技した選手たちは、その鬼気迫る雰囲気に呑み込まれてしまう。異次元の滑りを見せた金メダリストのネイサン・チェン選手と、怖いもの知らず18歳の鍵山優真選手の以外の選手は、点数を思うように伸ばすことのできなかった。これはやはり王者の風格が強いプレッシャーを感じさせたから。ロシアの皇帝、トリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ氏に「もちろん、羽生結弦にもおめでとうと言いたい。あなたのレガシーは永遠にわれわれの心に残る。あなたの勇気とプロ精神は無限だ」と、敬意を表されたくらい、4回転半挑戦のパフォーマンスは特筆すべきこと。負けて強しの印象が彼の偉大さを証明してくれる。