蟻の城

今週の日曜日から宇部市で開幕した「UBEビエンナーレ現代日本彫刻展)」。その第1回目は1961年に遡る。「文化の香り高い豊かな町づくり」をスローガンに、都市再建計画をすすめる中で創設され、運営委員が自らから重機に乗って会場整備していき、限られた条件の中で、数々のハードルを情熱でクリアして、日本初の大規模な野外彫刻展が誕生した。

翌1962年、宇部市が「宇部」をテーマに5人の彫刻家に模型制作を依頼し、彫刻家 向井良吉の「蟻の城」だけが実物大の作品制作に選ばれた。その時に作品に用いられたすべての素材は、地元・宇部市の工場から鉄くずを提供してもらったため、歯車やレールなどの廃材を繋ぎ合わせて制作したのだった。ちなみにこの作品の着想は自宅の庭で見つけたアリの巣と戦争体験から生まれたとのこと。敵戦闘機が頭上を飛ぶ中、地面でアリ同士が戦い、その死骸を別のアリがすぐに片付けるのを見た時に、「アリも人間と似たような生活をしている。けれど、人間よりも優れた生物だなと思いましたね」という言葉が残っている。

今年、「蟻の城」は還暦を迎える。ときわ公園の唯一無二の象徴であるとともに、宇部市民のグランドファーザー的な存在として、今日も訪れる人たちを豊かなオーラで包み込んでいる。そう言えば、この夏に山口県立美術館で開催された「庵野秀明展」。庵野さんは言わずと知れた宇部市出身で、「蟻の城」よりも2コ先輩だから、この作品とは幼少の頃からずっと何度も何度も触れ合っている。もしかしたら、マブダチなのかもしれない。どことなく、汎用ヒト型決戦兵器 人造人間「エヴァンゲリオン」と「蟻の城」は、それぞれが醸し出す空気が似ているように思う。その正体は宇部市独特の空気なのかもしれないが、鉄が創り出す生命感は親戚ぐらいの近しい関係ではないだろうか。