清心事達

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10数年前、その美術家と初めて出会った時の印象と言えば、ある線を越えて近づくことのできないバリアがあった。それは私に対してのことでもなく、他の人に対しても同じことで、前年の県美展で大賞を受賞したため、一気に表舞台に立った戸惑いから生まれたもの。いきなりスポットライトが当たって、人々の視線を浴びてしまうことは、決して精神的に良いことだと言えない。ジェットコースターのように、上がったと思ったら次の瞬間に急降下するような、激しい波の中で何もできない状態でいること。それまでの絶対的な経験が少ないから、手にした幸運を持て余して濁っていたのかもしれない。つまり勝手に取り越し苦労をしていたのだろう。
そんな彼は会うたびにたくましく成長していった。年々、評価が高まることで自信が生まれて・・・というより、この世界でしか生きられないことに気が付いた。じたばたしても始まらない。美術家の人生は思い通りにいかなくてもすべて自己責任なのだ。美術の世界に生きるための掟を知り、さらに続けることで危険が増すことを脅えなくなった。保険のない人生にどこまでも生きていくのだ!本当に素晴らしい覚悟を感じている。2年前、ひさしぶりに彼の作品を展示した時に、ここに集まる若い美術家に問いただしてくれた。私はあまりにも素敵なやり取りに何も言わずただ傍観するだけ。ギャラリーに響くやさしく鋭く、熱のこもった愛のある言葉に感謝した。先輩が後輩に美術とは何かを厳しい稽古をつけてくれた。美術家は不果実な道を歩むわけで、それを承知した人でないといけない。才能という遺伝子を刺激できる姿に明るい未来を感じさせられた。
■手嶋大輔展 未知のまなざし 2019年4月10日(水)~16日(火) 10:30-20:00(最終日18:00まで) 銀座三越7階ギャラリー 東京都中央区銀座4-6-16 ※手嶋大輔 在廊日 4月10日-14日