研鑽を積む

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都道府県が主催して行う美術展覧会は、大きく2つにわければ自由に誰でも参加できる祭典的なものと思い切って入選数を絞り込むコンクール的なものになる。このどちらにも長所と短所があって、簡単に比較することはできない。山口県美術展覧会は県立美術館が開館して初めて行った時から厳選主義にハンドルをきり、コンクール的性格が強く打ち出された。これはやはり戦後間もない1947年に在野の美術家たちによって創設され、文化が復興していくことで豊かな感性が育まれて、新しい国創りへの力になるという理念があったからだ。長い間、県美展を見守ってきた重鎮たちが、当時と変わらぬ熱い思いを貫いて、県の文化レベルの向上を願って決断したのだろう。

当時、その志に若手美術家がすぐに反応した。第34回県美展最優秀賞は鉛筆で描かれた新聞を一万枚ほど印刷し、それを積み上げて彫刻作品として出展した「ドローイング新聞 NO13(一万部)」。作者の名前は吉村芳生氏。山口県の美術に衝撃を与えて、規格外の発想に人々を大いに驚かさせた。ちなみに私もそのひとりだ。そもそも高校1年生だったので、そんな美術の知識はなかったけど、オーソドックスな美術が主流の時代に、反骨心丸出しの作品に飲み込まれた。今だからこうやって言葉にできるけど、さすがに高校生には革命的な尖がった作品は形容できず、「なんも言えねえ~」と素直に脱帽した。昨日、ご子息の大星君と吉村さんのことについて語り合う。あれやこれやといろいろなことを思い出す。なんと最初に観たのは40年前なのだ。でも記憶は鮮明に残っていて、また、あの作品は古くなったような気がしない。虎は死して皮を留め人は死して名を残すという格言は本当なのだ。次に彼に会った時にも語り合って吉村ヒストリーの研鑽を積みたい。

■HEART2019の関連企画 県美界隈展 『花』、Y氏とともに 2020年2月13日(木)~3月1日(日) 11:00-18:00 火水定休