慈悲深さ

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人は決して弱い生きものではない。みんな熱いエネルギーを持っている。だけど、普段はその数パーセントしか発揮していない。なぜなら危機的な状況に出合った時に、そこから脱出して生き延びるために力を温存している。いわゆる予期せぬことに見舞われた時に、太古の歴史から組み込まれた遺伝子を燃やして、潜在能力を活かして乗り越えようとしていくのだ。この秘められたパワーを最大限に引き出すのは思いっきりの良さが肝である。自ら積極的な行動を起こすことで、あらゆる可能性を切り拓いていくことができる。だからピンチに陥っても怯まずに進んでいくこと。勇気を奮って一歩前へ出ることが大切になるのだ。

人はそんな素晴らしい才能があるのにも関わらず、なかなかエイヤ!と発揮することができない。それは普段の省エネな生活に慣れてしまったら、これくらいが自分の限界だと誤認するからだ。特に今の日本のように便利で快適な環境の中にいると、フラットで動きやすいバリアフリーの生活に依存し、どんどん気持ちが弱ってパフォーマンスも落ちていく。いつの間にかぬるま湯につかっているようなもの。時間が経つとともに情熱は冷めてやる気が失せる。新しいことへ挑戦するハングリーさが湧きづらくなるのだ。

岸透子さんは少々のことではめげずに頑張る人。いろんな経験をしたことで挫けずに前向きだ。そこには彼女のらしい哲学を感じる。人間も、動物も、植物もみんな平等に生きている。それぞれの力が重なって活かされている。大いなる地球の中に存在する生命体は同調することで個性が際立っていくはずだ。このたびの作品展で飾られた書き下ろしメッセージを拝見していると、このような大きな心でものごとを見つめているように思った。鮮やかな信念が輝いている。そして、この世を悟ったようなにやさしく見つめることで、すべてを包み込んでいく慈悲深さがあるのだろう。