不器用

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先週、知り合いの方から「どんなタイプの人が美術家になるのでしょうか?」と尋ねられた。そこで「真面目に普通の人のように生きようとしても、いつの間にかズレて普通には生きられない、器用というよりも不器用な人が向いている職業だと思います」と回答することにした。なぜなら、器用な人は何かを制作すれば、器用であるが故に最少エネルギーで効率よく制作するため、既存の枠にすっぽりと収まるようなセンスが漂い、パフォーマンスの弱い作品になりやすい。反対に不器用な人がとことんできるまでやったら、不器用なためにあれこれと試行錯誤を繰り返し、ついにはその人にしかできない世界観に辿り着けたりするもの。

つまり、器用に立ち回って万人受けするものに染まっていくより、不器用さの尖り感をアドバンテージにすることで、これまでになかった切り口で打ち破っていけるのだ。どんな万策尽きてどんずりになっても、不器用な人は不器用だから美術の世界から逃げられない。一度志したことならたとえ火の中水の中。どんな時も屈せずに創作をやっていける根性の持ち主と言っていい。そう、自分を貫いて抜けるのは不器用な人の最大の特徴なのだ。

ちなみに、岡本太郎氏が言った「才能なんてないほうがいい。才能なんて勝手にしやがれだ。才能のある者だけがこの世で偉いんじゃない。才能のあるなしにかかわらず、自分として純粋に生きることが、人間のほんとうの生き方だ。頭のいい、体のいいとか、また才能があるなんてことは逆に生きていく上で、マイナスを背負うことだと思った方がいいくらいだ」。美術家の本質を感じさせられる言葉である。他人から見た自分がどうであるより、自分自身がやりたいことをやり切ることが大切なのだ。不器用さを斬新さとして活かし、新しい創作の武器にしていこう。