いつまでも謙虚な心で

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そう言えば、その昔から堂々と「美術家です!」と名乗る人と出会うことがあった。最初の頃は臆面もなく自信を持って言うから、それなりに才能のある人なのだと思っていた。しかし、実際に額面通りの実力者には会ったことはない。たしかに少しばかりは見どころがあるものの、残念ながら習作の範囲を抜け出せない。おそらくこんな勘違いをするのは、相対的な物差しで美術を図ろうとするため、ある集団の中で上位にいたことを根拠にして、自分の能力は素晴らしいと過信しているのだろう。小さなコミュニティだったにも関わらず、勝手に自己評価を高くしてのぼせている。「大丈夫!成功できるからこのままでいい」と安易に自己診断して、いつまでも個性を鍛えないまま埋没させてしまうのだ。

その反対に美術へコンプレックスを持って活動する人たちがいる。例えば有名美術大学へ進めなかったり、目指した公募展で結果が出なかったり、果敢な挑戦が不発に終わって、嫌になるほど挫折を味わっても、美術のことが好きだからやめられないのだ。こういう人たちは創作活動について用心深い。決して無理な計画を立てないし、調子が悪くなれば気分転換をしてやる気になるのを待つ。また、必然的に創作をチェックする機会が多くなって、美術家仲間や評論家、鑑賞者などのアドバイスを求めるから、その人にとって有益な情報を得られる。コンプレックスがあるからこそ、元気に創作活動していくことができる。自分は天才じゃないと思うことで、いくつになって成長のために創意工夫している。

つまり「無知の知」を意識していこう。美術の世界はわかっているようでわからないもの。その歴史はめちゃくちゃ古くからあるし、先端的な表現は常に時代と共に進化していく。永遠の謎と不思議な感覚があるから面白いのだ。これくらい美術を知っていれば大丈夫なんてことはない。美術をよくわかったつもりで制作していけば、壁にぶつかったり穴に落ちたりする。美術はこんなものだろうと高を括らずに、どこまでも愚直にやり続けていこう!