帰郷

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四文字熟語の立身出世。その意味は仕事などで成功し、世間に認められ、社会的な地位を得ること。その人が実績を積み、地位を築き、評価を上げて成功することをいう。この言葉は中原中也記念館で購入した本の中で出合う。「(帰省した中也の心境)離れてから身を置く故郷の地は、懐かしものである一方、立身出世を尊ぶ土地柄。実家からの仕送りに頼りながら詩人の道を歩む中也に対する人々の視線は冷たく、疎外感を強く感じる場でもありました」と書かれてあった。
私はこの文章に触れた瞬間、思わず苦笑いしてしまう。なぜなら、山口市民というのか、地方都市にありがちな気質を言い表したからだ。頑張った人が報われることを称賛する。そのことは素敵なこと。ただし、その対象は有名大学、官公庁、大企業などなど、素人でもわかる立身出世でなくてはならない。そうなると詩人なんて圧倒的に不利。世の価値観からはみ出した人なんて評価してもらえない。
しかし、だからこそ、中也は才能を伸ばせた。孤独な時間に自分の個性と向き合い深めていく。独りぼっちの時に誰にも邪魔されずに創作できた。中途半端に評価されなかったことが幸いする。「ああ おまえはなにをして来たのだと・・・ 吹き来る風が私にいう」という自身の詩「帰郷」の一節のように、逆風をリバンドさせて才能を磨いていったのだろう。