今に見ちょれ!

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昨日の午後、吉村大星君と取り留めのないまま美術談義をしているうちに、彼の亡き父・芳生さんの15年前の県美展でのエピソードにたどり着く。

大星君曰く、「負けん気の強い父の口癖は『今に見ちょれ!』。頭をカッカさせながら、俺は必ず誰にもできない作品を創ってやるといつも息巻いていた。中でも2006年度県美展の審査結果が出た時は凄まじかった。公開審査会に出席して大賞の座を無名の美術家に奪われた瞬間を目にしたため、最後の質疑応答の時に審査員に『わかりますか!これは鉛筆で描いたものです!』と言って食い下がって、恥ずかしかった。その後、家に帰ってからも収まらないままで、しばらくして落ち着いてから、『今に見ちょれ!』と気合いを入れ直して、次年度の県美展に出展する作品づくりに没頭していった。

そして、次の県美展で大賞になれたから良かったけど、その1年間は、自分に足らないものや上手くいかない理由など、とにかく、負けたくない一心でストイックに絵を描いていた。今から思えば、無名の大賞受賞した美術家は手嶋大輔さんだったから審査員はなにも間違ってはいない。父も父で作品について深く考えることができたからいい機会になったのだと思う。結局のところ、晩年も県美展のおかげで成長できたのかもしれない」というようなことをお聞かせいただいた。たしかにこの時に集中して創作したことでレベルアップしていく。2010年の県立美術館での展覧会に向かって作品のクオリティーがよくなる。華々しい晩年の作品をこうして出来上がっていったのだ。『今に見ちょれ!』。なんていい言葉なのだろう。