鳩と青年

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1954年、香月泰男画伯は戦争反対の意思表示として「鳩と青年」という作品を描かれた。この作品は後にシベリアシリーズ誕生のきっかけと言われ、青年像は十字架上のキリストの腕や、画伯が満州国で目にした全裸の屍骸(しがい)をモチーフしたと言われている。その作品制作する前に、以下のような言葉を残す。

この作品で私が意図したものは戦争への憎悪による平和への願望を強く訴えることです。戦争による膨大な犠牲の代償として平和への願望があったはずなのに、日本人は今それを忘却しようとしている。

日本は敗戦から9年が経過して、極度の食料不足と焼け野原から経済復興を果たし、専守防衛の理念のもとに自衛隊が発足するなど、社会は大きく変化していった時代。画伯はこの流れに危機を感じ、シベリヤなどの辛く厳しい経験を回想的に表現したのではなく、平和への切実な思いから描いていったのだ。誰でも平和が良いことはわかっている。だけど、平和という尊いものは戦争を経験しない人にはわからない。ついついわかっているつもりになったら、むしろ危ういもの。いつの間にやら都合の良い解釈にすり替わり、そのうちに誰にもコントロールできなくなって、悲惨な社会へとひたすら暴走していくだろう。だから、平和について真正面から答えられず、論点をずらして自己中心的な大義は許されない。しっかりと互いの意見を尊重し合い、第一に平和であるように努力すべきだ。