色鉛筆で描く彼岸と日常

1985年1月、山口県立美術館ニュースに、吉村芳生さん(当時34歳 故人)が寄稿した文章があって、その冒頭は今読んでみてもなかなか面白かった。

今日は朝から宇宙が痛い。どうも宇宙の調子が悪い。我が宇宙の状態がもっとも良くなるのは深夜である。そう深夜、魂は宇宙に放たれていく。我々は肉体の上に宇宙という頭をのせて歩いている。我われは、頭脳の中で思い巡る想像の世界を、それは時間と空間を超越した魂の世界(宇宙)なのだろう。

一方、肉体とは魂を与えられた鏡で、肉体という魂は現実という時間と空間の中に生きている。人の死は肉体の終わりであって、魂を肉体から解放してくれる。しかし、死後の魂は肉体という鏡を持たないので、自我は無く夢を見ているときのような、水平思考的世界に存在するのである。そして、輪廻によりまた、肉体の時間が与えられるのだ。

なんとも含蓄のある言葉。最晩年、超絶技巧で描かれた花々は現実の世界を乗り越え、あたかも極楽浄土に咲いたような雰囲気で、あの世の花々を描きたいと語られたことや、「色鉛筆で描く彼岸と日常」という展覧会のことも思い出した。もっと早く気が付いて、お尋ねしてみたかった。本当に残念。だけど、吉村さんの魂はいつも身近にいるように思える。特にあの日はすぐそばにいたはず。あなたを尊敬する二人のそばで笑っていたでしょう。