感受性

徳川家康が残した「不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。おのれを責めて人をせむるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり」という遺訓がある。

この意味は、人の一生というものは重い荷を背負って遠い道を行くようなもの。決して急いではいけない。不自由が当たり前と考えれば不満は生じない。欲が起きた時には苦しかったことを思い出すこと。我慢することで無事に長く安らかでいられる。怒りは敵と思うべし。勝つことばかり知って、負けを知らずは危険である。自分の行動について反省し、人の責任を攻めないこと。足りないほうが、やり過ぎるよりは優れているだ。

このたびの中野寿子さんの個展期間中、「なぜ、写真で十分伝わってくるのに、絵にする必要があるのですか?」という質問が相次いだ。そこで「それは絵にしないとわからない世界があるんですよ」という私見を述べた。効率第一では伝わらないもの、人が描くことでしか感じないもの。どこか足らないものには想像力が補填する。長く見つめるには写真より絵の方がじっくりとできる。