この世もあの世も

f:id:gallerynakano:20200222231907j:plain


13年前の県美展へ不退転の覚悟で臨む画家がいた。その前年、「これなら大賞を取れるはず」と期待した作品は、惜しくも次席になる優秀賞にどどまり、思いもよらぬ結果に苦渋を飲まされた。本人にしたら「まさか」のひと言に尽きる。どうしてなんだ?何が足らなっかったのだろうか?必死に考えてみたところある結論に達していく。いつの間にやらキャリアに甘えて、審査員の目線を意識した作品になった。アピールするためにビジュアルを気にして、創作するために必要な魂が貧弱だと気づかされた。どこかテクニックばかりに溺れて、審査員のハートを震わすパンチがなかった。一にも二にも創作への熱量が足らなかったのだ。

画家として初心を忘れた創作を反省し、必死な思いで鉛筆を走らせて描いていった。作品「徳地に住んで見えてくるもの(色鉛筆で描く…)」。見事、大賞に輝く。また、この半年前に森美術館の企画展「六本木クロッシング」を打診され、自身の作品が日の目を見るが近いことを予感していた。ここから怒涛の勢いで知名度は全国区に広まっていく。飛ぶ鳥を落す勢いそのものだった。

当時、その作品を観てインスパイアされた美術家がいた。「この世のものとは思えないほど美しいコスモス」。逆立ちしてもかなわない創作を称賛し、ひしひしと目に焼き付けていったのだ。そんな彼にこのたびのグループ展の参加を誘う。もちらん、すぐに二つ返事をもらい、そして、彼はあの時の感覚を思い出し、シリーズ化している「ももくり」作品を制作した。蓮の花の上にいるももくり作品。素晴らしい作品が存在できる場所に、この世もあの世もないというメッセージが込められている。きっと、天国から笑っているよ。「君、やるじゃないか」って喜んでいるはず。本当にさすがだ。これからも楽しみにしている!