真理を求めて

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5年前、親族の付き添いで通った医院の本棚に人間学の本があった。待ち時間にざっくりと斜め読みしたところ、文面の熱さに俄然興味を持ってしまい、「貸してください」と頭を下げて持ち帰った。とにかく信念のある言葉のボリュームが半端ではない。人間の不思議な力を肯定的に捉えて、心のうちを向上するように精進し、人生を謳歌させるために鋭い感性を目覚めさせていく。このようなコンセプトの元、実話をベースに切々と書き綴られた内容は、時々立ち止まって胸に手を当てて、深く味わわないと意味することは理解できない。何度も読み返しながら格闘することになった。

そんな本の中でピンとくる逸話があった。それは野っ原を歩いていた時に目の前に虎が現れたため、傍らが崖っぷちの大きな木に登って逃げたら、今度は頭上の枝にいた大蛇が近づいてきたのだ。上に大蛇、下に虎と絶体絶命の大ピンチ。そこで見渡すと突き出た枝に、カズラが谷底に向かって伸びていて、これにぶら下がっていたところ、なんとリスがカズラをかじってきた。このような場面、お前ならどうするのか?という師から弟子への問いだ。すると弟子は「何も慌てることはない。カズラが切れるまでは生きている。切れて落ちてから先のことは、落ちてから考えればいい」と答えて、その先のことを取り越し苦労せず、今を精一杯生きる考え方を師は褒め称えたのだ。

私もこの質問を誰かに試したくなった。どんな答えが聴けるのかが楽しみだ。そこである若者に同じことを話して反応を伺う。なんて答えるのか。若者はしばし考えてから「(カズラに)つかまってるしかないのでしょうね」と、見事を真理を言い当てて驚かされた。もしかしていつも天然でボーとしているのは、実は頭の中を真っ白にして雑念を捨て去り、純度の高い想像力を創るためなのかもしれない。それはさておき、おそらく彼女は美術にしがみつき、課題に悪戦苦闘しながらも、前向きに努力しているから、こういう発想が生まれたのだろう。このまま彼女らしくあり続けることを期待した。