やりがいのあるステージ

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「地位が人をつくり、環境が人を育てる」という格言がある。まだちょっと力不足であることは事実なのだが、ここは伸びしろを信じて思い切って抜擢する。特に次世代を担う若い人だったら、少々足りなくても後ろから見守ってみよう。そうやって期待して責任感を持たせたら、少しずつピリッとした顔つきに変わり、やるべきことへの意識も高まっていく。自分から積極的に行動できるようになって、如何にも地位にふさわしい人物と言われてくる。人は与えられた地位や環境によって、じわじわと才能を発揮していくものだ。

2013年12月、当ギャラリーで初めて臼杵万理実さんの個展を企画する。約4年間に渡って様々な課題をクリアして、いろんな人たちに可愛がってもらい、さらに同年5月の公募グループ展で1位になったことで、気が熟したのだと判断して行った。だけど、当時はキャリアの浅い若者が個展を開くのは厳しい時代。美術に目の肥えた方やベテランの美術家も多く、うかつに個展でもしてしまったら、せっかく伸びてきた羽が折れかねない。失敗した時のフォローについて、いくつか真面目にシュミレーションする。今から思い出したら、とても馬鹿馬鹿しいけれど、ある種の覚悟を持って個展に臨むしかなかった。

そして、個展が始まる。会場には想像以上の来場者と、多くの方々に喜んでもらえて、盛会のうちに幕を引くことができた。あれこれ考え抜いたことは、まったくの取り越し苦労もいいところ。彼女は明るいキャラクターで、イソップ童話の「北風と太陽」の太陽のように、来場者をあたたかく包み込み、楽しい時間をつくりだしていた。それはこの会期中のいくつもの出会いにより、未熟なハートは育まれていって、想像以上のパフォーマンスが発揮することができた。一気に人として成長していったのだろう。やはり活躍の場を与えることは大切なこと。人の隠れていた才能はやりがいのあるステージで引き出される。