犬馬は難し鬼魅は易し

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いわゆる子供の絵と言えば、世間一般の固定概念にとらわれず、独創的な表現力を持っている。恐れを知らない大胆さによって、センスやテクニックを度外視し、自分を押し込めず、ドーンとダイナミックに描いて、絵を楽しみ遊んでいる。だから子供の絵とは、日常の中から大きくはみ出し、余計なものをどんどんそぎ落して、言葉では表現できない不思議な世界になる。純粋に透き通った瞳とその感受性を武器にして、大胆なことを自由奔放にやって、とんでもない発想で創られるから、エネルギーに溢れたものが生まれてくるのだろう。

ところで、子供が描いたような絵と言えば、郷土の画家 松田正平先生。世の中の常識にとらわれず、瓢々とした作風で知られる。すべてのものをそのまま素直に見つめ、素材を十分活かした表現で数多くの人たちを魅了する。「犬馬は難し鬼魅は易し」。松田先生が愛した言葉で、実在しない鬼や化けものを描くことは易しいが、犬や馬などの日常にありふれたものを、生き生きと感じられるように、描いていくのは難しいという意味だ。身近なモチーフを好んで描き続け、それはよく知られているだけに、本質を失ってはいけない。色眼鏡を外して創意工夫することを奨励していた。

つまり、その作品は子供の絵のような印象を与えながらも、卓越したテクニックでモチーフの本質に迫っていく。身近なものをただ描いただけでは生命力は伝わらない。見たまま、聴いたままの通りいっぺんでは、せっかく描いたとしても肝心なものを取りこぼす。できるだけ、たくさん本物に触れて、いろんな感覚を味わい、いろんな価値観を感じていく。ただし、必要なもの以外は捨てて、自分らしい感覚を求めてみよう。そう、子供たちと同じように、日常見慣れているもの中に、新しい発見を楽しんでいく。見えているものの中にある、見えていないもののを、感性と想像力を使って面白がろう。私たちも松田先生と同じように、子供のような視点を磨いて、いつも新鮮な空気を肌で感じていきましょう!