青雲の志

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春先にひさしぶりに古くからの友人に会った時のこと。彼は美術への造詣がとても深く、美術関係の知り合いもたくさんいる。そんな恵まれた家庭環境に育ったためなのか、お子さんの1人が美大へ進学すると言い出した。当然ながら目指していくのは美術家だ。その言葉に彼はやさしく背中を押して、あたたかく見守ることにする。いつの時代も高校生は無条件の若さをエネルギッシュに輝かせる時。とにかく夢中になれることに出合えて良かったと喜んでいた。

そして、お子さんは親の人脈を活かして、次々に美術家に元へ会いに行く。具体的なイメージを持つため、少しでもヒントになることを求めて、自転車を走らせて駆けつけた。すると会った美術家たちがみな口を揃えて同じことを言ったという。それは「簡単には生活できるほど稼げないよ。普通の人より金銭面はよくないことを覚悟した方がいい」だ。おおー、なんて愛情豊かな言葉だ。自分らしい作風に築き上げるまでには、どんなに頑張ってもそうそうやれるものではない。稀に20代で開花する人もいるけど、やはり底の浅いものになって、長いスパンでは通用しない。すぐに売れそうなことは、すぐに売れなくなるものなのだ。

このような現実を目の当たりにしてもお子さんはぶれなかった。美術が好きだからやりたいと決めたこと。また、幼い頃から父親のおかげでこの世界の厳しさをなんとなく肌で感じ、このくらいの洗礼は織り込み済みのようだった。もちろん、まだまだ世間知らずで向こう見ずなのは確かだ。それゆえに純粋に美術と向き合えるのだろう。彼から助言を求めれる。そこで「これからの新しい時代にふさわしく、これまでになかった、僕らが知らないもの創ったらいいのだ!だけど、先人たちをリスペクトする謙虚さだけは忘れないでね」と、要約したらこのようなことを伝えた。先は長いけど、楽しみが1つ増えた。とにかく頑張っていきましょう!