バトルロワイアル

f:id:gallerynakano:20200620212212j:plain

かつて山口県美術展覧会は、洋画、日本画、工芸、書道、彫塑、写真、デザインの7部門に分けられていた。当時、美術表現はほぼこの中に収まると考えられ、それぞれの分野で評価の高かった作品から、その年度で一番になる最優秀賞を選出していた。そのため、出展者にとっても鑑賞者にとっても、専門分野で評価された後の他流試合での順位決定戦は、なんとなく指針がわかりやすく、審査結果が納得できるものだった。一番になるものは先進的な雰囲気が伝わるものと寛容に受け止められたのだ。それが時代とともに美術表現の分野は広がり、この7つの分野では収まらないほど多様化していった。これまでになかった作品に使用できる素材は増えて、また、パソコンの機器によって創られるものなど、多種多様な時代の産物から新しい表現方法が次々に誕生し、専門性の高い物差しでは対応しきれなくなってしまったのだ。

ちなみに県美展は県立美術館が開館してから、しばらくした頃に7部門をやめ、平面と立体の2部門になって、さらに部門も大きさの制限もなくなって、いわゆるプロレスのバトルロワイアルのように、複数の部門の作品が一度に美術評価を求めて、落選することなく最後まで評価されることを目的とした公募展になったのだ。だからそれなりに力がある作品であっても、偶然にも似たような作品によって個性が打ち消され、それとは違ったタイプの伏兵が賞になることも多い。その時一回だけの完全一発勝負の公募展。実力者がその実力どおりにならないこともあるからエキサイティングになれるのだ。

昨日の夕方、私は岸さんに県美展へ挑戦しませんか?と勧めてみた。その理由は入選入賞することも大切だけど、やはり最大の目的は大きな緊張感を味わうこと。身近であれほどの舞台は他にはないから進言した。もちろん、実際に出展するのもよし、見極めて出さぬのもよし。あくまでもこういうステージを意識することで、視野が広がることを期待して言葉。彼女の刺激になることを祈って語ったものであった。