スロースタート

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その昔、美術の道へ進もうと決めたのは高校2年生になってから。高校1年生の時はいわゆる帰宅部で、それ以前の中学生の時は卓球部に所属し、小学生の時は近所で普通に遊ぶまわる日々を過ごした。よくある子供の頃から絵が大好きで、画家になることを夢見ていた訳ではない。いつも校内を楽しそうにかっぽする、美術部の先輩たちの明るい姿を見ているうちに、なんだか面白そうだから自分もやってみたくなったのだ。こういう世界は自分らしく自由に生きられて、時間厳守で堅苦しく働かなくていいと、メリットばかりが浮かんだのかもしれない。いずれにしてもここから美術家への旅が始まった。

ちなみにあの頃の美術部は役者たちが一堂に揃う。顧問の美術教師は画家として銀座の画廊で定期的に個展が企画された。また、母校の東京藝大へ何人も入学させるほど、熱心な指導者としても知られていた。そんな風土に引き寄せられて、美術家を目指す若人が自然と集まり、美術に限らず映画や音楽などを語り合って、様々な文化の刺激を受けて感性は磨かれていった。高校卒業後は藝大を受験したものの縁がなく、4浪後に出来立ての美術専門学校で3年間学んだ。今からしてみればこの進路は運命的なもの。当時、美術界に新風を巻き起こしていた中堅美術家が講師として勢ぞろいし、後にフランスでアートプロジェクトを手伝うことになる人物とも出会えた。

卒業後は都心の環境アートを運営する会社へ就職する。バブル景気もあって華やいでいた時期だった。その後、30歳を過ぎてから礼拝堂再生プロジェクトの助手になるために仕事をやめてフランスへ。約2年半、異国の地でいろんなことを肌で感じて、視野が広くて柔軟さのある観察力を大いに養った。帰国後は地元へ戻って創作活動を始める。長い準備期間を経てスタートした。だから自分を見失わず、周囲に流されない、凛とした姿勢を感じる。自分自身は美術家であろうとする信念があるからだろう。