有頂天

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有頂天という言葉がある。その語源は仏教で、世界の最も上に位置する天のこと。精神世界のもっとも高い位を表す境地を指す。しかし、この境地に達することは迷いだとされる。なぜなら、万人共生で繋がっている大地を離れて、自分ひとりが高きに昇ることを善しとする生き方になるからだ。すべての関わりを閉ざすことによって大安心を得るため、それでは真理や智慧の光が届かないことから迷いだと言われている。

そんな有頂天になりやすいのは若い時期だろう。何かでとんとん拍子で上手くいったら、つい喜びのあまり気分が舞い上がってしまう。それは素直な気持ちを抑えきれなかったこと。若さゆえの表現で良いことだは思っている。だけど、いつしか自分はすぐれていると勘違いし、力を貸してくれた人たちの恩を忘れ、おごりたかぶった態度になることが多い。こうなると他人の助言は耳に入らず、自分勝手な行動から失敗しやすくになる。だから若い時に評価されることは気を付けた方がいい。へんに勢いがついたら足元をすべらかす。まだまだ勉強不足であることを自覚できなくなるからだ。

ところで、ただいま個展開催中の吉田朱里さん。彼女は2016年に全国公募団体自由美術協会の新人賞を受賞したことがある。この時の心境を尋ねてみたら、「その瞬間は嬉しかったけれど、すぐに私で本当にいいのかなあ?と思うようになって、そう言えば喜んでいいほど頑張って(努力)いないから、ほとんど実感は湧かないままだった」と語ってくれた。なるほど、これは冷静というよりも、創作することが好きだから評価は二の次なのだ。極端な言い方をしたら、作品制作さえできれば、あとことは興味がない。どうでいい。そう、純粋に美術と向き合っているだけ。やはり美術の申し子。より良い作品つくりに集中しているのだ。