“ドッキング” からの視線

f:id:gallerynakano:20210708233720j:plain

2007年9月28日より山口県立美術館で開催された「田中米吉 “ドッキング” からの視線」は、県美開館以来初めて県内存命の美術作家を取り上げた展覧会。やはりこの記念すべき第1回目に値するのは、芸術家として多くの人たちに慕われて、創作活動の実績も十分にある先生に他ならない。押しも押されもせぬ人材の登用に異論するものはいなかった。
当時、先生は82歳。地元でようやく悲願がかなって企画されたワンマンショーは、さながら先生のお祝い会というムードが漂い、開会式も和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。そんな中で行われたギャラリーツアー。展示会場の中を先生の活き活きとした声が響き渡る。とにかく上機嫌だった。いつものパワフルで情熱的な米吉節はなりをひそめて、これまでの人生の歩みを振り返って静かな口調で語っていた。
ちなみにその時にお話しよると、子供の頃に道端にある電柱や杭が列に並ぶ遠近の関係に興味を持つ。また、絵を描くことや模型の飛行船作りに夢中になって、小学3年生の頃に美術家になりたいと思うようになったそうだ。その後は工業専門学校(工学部)へ進学。学徒動員で潜航輸送艇の図面作りに携わる。敗戦後は自動車会社に就職し、中学校の理科教員に転職してから、働く傍らで絵を描き続けた。
30代後半、家業の外郎屋を継ぐ前に上京。さまざまな美術作家や作品に刺激に明け暮れた。中でも図書館で偶然出合った点字の造形性に惹き込まれる。点字の形や触り心地に魅力を感じて、平面表現の絵から立体的な世界に転向していった。そして、この数年後に山口高校が所蔵する「機能性(点字 333333.)は誕生したのだ。(続く)