熱伝導率

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1985年の晩秋、この年の第11回現代日本彫刻展で悲願の大賞を受賞した田中米吉先生のお祝い会が湯田温泉のホテル行われた。会場には県内外の美術界の重鎮をはじめ、現代美術家の殿敷侃氏、写真家の下瀬信雄氏、彫刻家の田邉武氏、超絶技巧の画家 吉村芳生氏など、さながら山口県の美術オールスターズと言うべき、第一線で活躍している精鋭が一堂に集っていた。また、これだけの顔ぶれが滅多に揃うことはない、文化界のスペシャリストたちも参加し、さらに米吉先生のファンの一般の方々もお招きされて、この一夜を心ゆくまでお酒を酌み交わしていった。さまざまな分野にあった壁を打ち破って、それぞれの人たちが自由に語り合い、活発なコミュニケーションの場になった。

芸術は人と人が交わることで生まてくれる化学反応を大切にしなくてはならない。だから、米吉先生が発するエネルギッシュな言葉に触れて、自らのイマジネーションを膨らますための栄養にしていく。米吉イズムを肌で感じることで心を響かせる力を強くしていく。本気の魂に触れることで感性をインスパイアして、未来をイメージする想像力を育んでいった。魂の熱い人と触れ合うと知らないうちに熱い魂がしみ込んでくる。そして、米吉先生の大賞受賞作の「無題 No95」は、その支柱を鏡面磨きのステンレスで、まわりの風景を映すことで存在感を隠し、空中に浮かぶ長方形の鉄のはこが揺れながら動く不思議な作品。知識や常識にこだわり過ぎず、大きな気持ちで余裕を持って、ゆったりと作品を観つめれば、自然と頭の中に何かが浮かんでくると、言葉だけではなく、作品からも創造という世界の素晴らしさを教えてくださった。(続く)