外郎

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先日、中也記念館を訪れた際に、いつもあれこれと教えていただくお礼に外郎を持参した。なんてたって山口外郎の元祖・福田屋はここの名誉館長のご実家。縁あって、彫刻家の田中米吉先生のご先祖様に受け継がれて現在に至っている。そういう経緯もあってお渡しして「これがわたしの故郷だ。さわやかなワラビの味がする」と、中也の詩を引用して冗談を言ったところ、後日、以下のようなメールを頂戴する。

母にきいてみると、中也の上京みやげは、必ず、福田屋の外郎だったそうである。「福田屋の外郎は、ワラビのセンでつくる。ワラビは古代の植物で、原始の味がする」と いうのが中也の説明であった。それに、「ふるさとには、外郎のような原始の味がある」という補足がついた。(出典:中原思郎「長谷川泰子さん」『中原中也ノート』より)

さすが研究者の方の懐が深い。他愛のない話しに意味を見出していただく。まさに、ひょうたんから駒が出てしまった。やはり、私たちはみんな歴史の上に立っている。だから、そんなつもりはなくても、思いもよらない思わぬ形で、過去のエピソードと交わることがある。風の向くまま気の向くままの行動でも馬鹿にしてはいけない。もしかしたら、あの日は中也がそばにいたのかもしれない。ワラビのセンで過去と今を結んで遊んでいた。山口には外郎のような原始の味があるというように、外郎をひと口食べれば、簡単にタイムトラベルができる街なのだろう。