敬愛

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「友情というものは、お互いに相手に対する尊敬と親愛の念の絶えざる持続がなければならぬものである」という名言がある。

1947年、戦後まもない時期に在野の美術家たちによって、荒廃の中、手製のキャンバスに手持ちの絵具での制作し、手弁当での展示作業をして、お互いの作品の前で語り合いながら、創作の再興を確かめ合う展覧会をモットーに、産声をあげた山口県美術展覧会。この設立の中心的な人物である画家 三好正直先生は、戦前戦後を通じて県美術界を牽引されて、県美展から個性豊かな美術家を全国へ送り出し、そして、最良の展覧会になれるように創意工夫を繰り返し、発展させてきた最大の功労者だ。

一昨日、ひさしぶりに彫刻家の田中米吉先生のアトリエを訪問した時のこと。エキセントリックな作品を見守るように、晩年のやさしくて気のいい三好先生の笑顔の写真が壁に飾ってあった。やはり、もっとも尊敬していると大っぴらに言われているだけのことがある。作品制作がなかなか上手くいかない時に、自分で自分から逃げ出さないように、また、熱い言葉で美術を語り合った日々を思い出し、創作へのモチベーションを上げるために写真は必要なのだ。 田中先生は三好先生の言いそうなことを想像しながら、さまざまな可能性にチャレンジしていって、創作を方向づけることができたのだろう。自分が導く人間と同じ視点に立ってこそ、そこにある芸術性が見えてくるのだ。