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その昔、既成の定跡にとらわれず数々の独創的な指し手で、将棋界に数々の伝説を残した升田幸三。奇想天外な戦法で魅せる将棋を第一にしていた。「棋士は無くてもいい商売だ。だからプロはファンにとって、面白い将棋を指す義務がある」という言葉にそのポリシーを感じさせられる。たしかに自分ではどんだけ面白いことしたつもりでも、それに興味を持ってもらえるかどうかはわからない。例え世紀の一戦と銘打ったところで、多くの人に注目されなかったら、プロとしてお手上げになるだろう。

美術家も同じこと。別にいなくてもいいと言われかねない。観る人に熱量が届かなかったら関心を持ってもらえない。ピンと来てもらわなかったら厳しくなる。心の琴線を響かせていくために、個性を強くアピールしなければならない。ただし、みんながみんなに評価される必要はない。誰かのハートを揺らすことができればいい。つまり、すぐにわかった作品はすぐに飽きられてしまう運命にある。美術はよくわからないから、もっと知りたいと知性を活発化させることで魅力的になる。その人の新しい刺激に与えて、感覚を活発化させるために、ときめかせることが大切だ。

ところで、升田幸三の言葉に「一人前になるには50年はかかるんだ。功を焦るな。悲観するな。もっと根を深く張るんだ。根を深く張れ」もある。これまた美術家にも通じるもの。たしかに50年も頑張るのは長過ぎるけど、パッと出くらいのクオリティでは通じない世界。平凡が非凡になるまでやり続けること。成功した姿をイメージしながら目の前のことに集中すること。どこまでも学ぼうとするものに幸運は訪れる。昨日、アスピラートでそのことを実感した。このままその姿勢であることを祈っている。