ミッション

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1985年の秋、お客様に「地元(山口県)で個展を考えている友人がいる」と紹介されて、元気よく関西へ出向いてお会いした。すると、物腰が柔らかくて紳士のような振る舞いで、丁寧にお話ししてくれたけれど、全身から発しているオーラは鋭く尖っていた。チャンスを絶対に掴んでやろうという意欲が漲っている。さすがプロの熱量は違うのだ。そんな印象を受けた初対面だった。

翌年の春に個展開催。その会期中にそれまでの経緯を聞かせていただく。どうしてもやりたくて大学を中退して飛び込んでしまったとのこと。作品制作をしては自ら雑誌などに売り込んだり、いろんな場所に顔を出しては繋がりを求め続けた日々。当時の私と同じ歳の頃に積極的に行動していたことに驚かされる。まったく足下にも及ばない。なんだか恥ずかしくなることばかり。自分にこれでいいのかと生き方を問い、大きな危機感を味わうことになった。

あれから35年。昨日、ひさしぶりに美術館でお会いする。だけど、距離感は変わらないまま。展示会場にあるソファーに座って、手振り身振りを加えて熱く切り絵について語る姿はあの頃と同じ。そして、「あと30年は頑張るつもり。それまで必要な材料はすでにストックがある。それから手の動きが悪くなった時に備えて、制作方法もいくつか考えている。切り絵ととも50年。だけど、次のことへ相変わらず創意工夫と試行錯誤の日々だよ」と、やさしい口調の中に熱い思いは今も抑えられなかった。その時々の初心を忘れずにいることと、切り絵作品への使命感のある活動に、私はずっと敬意を表しています。