ヘタウマ

長年、週刊誌に似顔絵塾などを連載して活躍するイラストレータ山藤章二氏。その著書に「『ヘタ』を甘くみてはいけない。『ヘタ』の持っている生命力、『ヘタ』の親近感。『ヘタ』のメッセージ力、『ヘタ』の抱擁力、『ヘタ』の絡みついて離れない機能。『ウマイ』ものには決して与えられていない、さまざまな特性が次から次と想起され、いちイラストレーションという狭い分野を超えて、これからの文化全般に関わるキーワードになるのでは、と、広範なところまで考え込んでしまった。これからは『ヘタ』の時代になると」という持論が書かれてあった。
いわゆる美術界は昔から「一芸に秀でる」という文化を重宝している。他人より抜きん出て上手くなることを推奨する。専門的な技術や知識を身に付けて上達すること。下手から上手い部類の方へ努力するのみ。上手い下手は実力や能力を図るためのもの差し。美術を評価する上で尺度にされていた。しかし、マンガやアニメなどによるサブカルチャーが台頭してきたおかげで、「カッコいい」「面白い」「ユニーク」という、新しく評価する基準の幅が広がって多様化していく。二極しかなかった価値観に寛容さを与えて、グレーゾーン的な要素から柔軟な思考を有効にしていった。
イラストレーターのりおた君。彼は小学生の頃から、趣味で絵を描く父親の影響で、山藤氏の似顔絵塾に投稿していた。将来は職業にすること夢見ながら挑戦していた。そこで山藤氏の上手いや下手の明快なものでは描き表せない、その狭間にある微妙で曖昧なものをヘタウマで表現することを学ぶ。りおた君はこの理念を吸収していった。世の常識に惑わされてはいけない。上手い作品で評価を得ようとしないで、自分らしい個性でバラエティーあるものを描けばいい。独自性にこだわりデフォルメしたキャラクターで勝負する、スポーツの劇的なドラマの瞬間を、それで描けばいいと悟った。だからこそ、心に突き刺さるインパクトがある。人間味が伝わる魅力的なものが描ける。ワクワクする世界観で惹きつけられるのだろう