まるくつながる

ただいまアスピラート(防府市)で開催中の「田中稔之 まるくつながるふたつのこころ」。画家 田中稔之氏(故人)は同市岸津出身。子供の頃から美術に親しみ、独学で絵を描き続ける。山口師範卒業後してから上京する。小学校図画工作教諭しながらデッサンを学び、資金を貯めて待望の欧州へ渡り武者修行。そこで日本文化の真髄に目覚めて、帰国後は和の風合いを活かした抽象画を制作する。その後、円をモチーフにした独創的なものを描くようになって活躍していく。多摩美術大学で教授として後進の育成に陣量を注ぎ、作家としても伝統的な日本の美を感じさせる彩り豊かな円の作品を生涯描いていった。
 そんな田中氏のパブリックアート防府駅そばの高架下にある。それを2017年に山口市で英語教員として働きだしたセルビア人のイェレナ・ムラデノビッチさんが、偶然、防府駅を利用した際に発見。壁一面に描かれていたモザイク壁画に大感激。目の前に広がる形と色が織りなす光景を楽しむために、しばらくその場で留まってしまった。実はムラデノビッチさんは、2012年にリスボンポルトガル)に住んでいた時に、葛飾北斎に関する本と出会い、リスボンの東洋美術館で日本美術を学んで親しみを持っていた。だから、田中氏の作品を観た瞬間に、そのことを鮮明に思い出し、日本特有の美しさを感じたのだろう。
このたびの展覧会は、ムラデノビッチさんが移住して防府市にいた時に、自ら積極的に作品を取材していき、その中で友情を育んだアスピラートの方たちと企画展を計画しましたが、コロナ感染症の影響で思うように進まず、彼女が国外へ行った後に開催することになりました。とは言え、田中稔之氏のの色褪せない世界を、あらためて表舞台に立たすことができたので、今おられる米国で喜んでいることでしょう。どうか、「抽象の良さはね、どうにでも見ろ、好きに見ろ、その面白さ。こちらから語りかけていける世界なんです」という田中氏の言葉のように、それぞれが自由な感覚で作品をお楽しみください。