蜘蛛の糸

芥川龍之介の児童向け短編小説『蜘蛛の糸』。そのあらすじは、悪事を働き地獄に落ちたカンダタだったが、蜘蛛を助けたという一つの善行によって、お釈迦様から地獄より抜け出るために、極楽から蜘蛛の糸が垂らされる。それにカンダタは気づいて蜘蛛の糸をつかんで上っていくが、後をつけて上ってくる地獄の亡者たちのせいで糸が切れることを恐れ、「この糸は自分のものだ」と叫んだ。するとその利己心のせいで蜘蛛の糸は切れてしまい、カンダタは真っ逆さまに地獄の池に落ちていったのだった。

ところで、このたびの山口県美術展覧会で大賞受賞作は吉村大星君の「ザルの惑星」。ホーロー製の水切りボウルの穴を惑星表面のクレーターに見立てる。そして、そのなかで動き回るハエトリグモを惑星表面で遊泳する宇宙飛行士としてなぞり、ありきたりの日常に小宇宙を見つけ出して、そこから大宇宙を空想しながら、独り遊びして楽しむ感覚が伝わる作品だ。

 私は大星君に「極楽から垂れてきた蜘蛛の糸を邪念なく、最後まで純粋な気持ちで掴み続けられたから大賞まで上れたんだね」と、冗談めかして語ったところ、「ずっと落選するのではないかばかり考えていました。まったく自信なんか持つことができなくて、時間さえあれば物足らない個所に加筆して、搬入する日まで悪あがきの連続です」と、苦しかった胸のうちを赤裸々に告白してくれました。やはりこれだけ真剣だったからこそ、美術の女神が振り向いてくれたのでしょう。いやいや、お釈迦様が金の蜘蛛の糸を垂らしてくれて、頂点まで上りつめることができたのでしょうね。